-序章-

「帆澄・新條出会い編」


 緑央学園高等部生徒会長、帆澄悠都。
 エスカレーター式の学園に高校から通い始めた悠都は自分でも予想外に生徒会長になってしまう。
 その原因は一年の新條一夜。
 多勢力を押しのける形で形成されたのは副会長以下全員が
 小等部からの一年生役員という異例の生徒会だった。
 なぜ、こんなことになったのだろうと時折思う。
 何度も自分はそんな柄じゃないと言った。そのたびに、そんなことはないと新條に諭された。
 そして気づけば当選の二文字が頭上に輝いていた。
 そんな無理矢理すぎる手法であっという間に生徒会長にのしあげられた悠都だったが、
 持ち前の明るさと努力を惜しまない気質でどうにか大任をこなしていた。
 悠都をそこに繋ぎとめたもの。
 あんな奴だけど……それでも、新條とつるむのは悪くない。
 そんな想いだったのかもしれない。



 緑央学園高等部生徒会副会長、新條一夜。
 小等部からソツのない文武両道の優等生として教師、生徒の両方から一目置かれる存在だった一夜。
 何事も自分の思惑通りに運ぶ変化のない毎日が続くことに苛立ちを覚えていた中三の春、
 唐突に一夜の世界は変わる。
 高等部に入学してきた小柄な少年。
 中等部よりも入学者の多い高等部の入学式を手伝っていた一夜に式場を尋ねた少年は、
 いままで出会った誰よりも輝いた瞳の少年だった。
 あの人の近くに行きたい。
 その想いが少年を支配する。



 四月。
 突然の申し出に悠都は驚いた。
「今年の生徒会選挙、一緒に出ていただけませんか」
 丁寧だが、どこか尊大な口調。
 一年生とは思えない長身、端麗な顔立ち。
「…なに言ってんの!?」
 一瞬、その優美な唇の動きに見とれてぼんやりしてしまったけれど、その中身を理解して盛大に驚いてしまった。
「そんなの無理に決まってんだろ!」
「無理じゃありませんよ」
 にっこり笑う一年坊主は、態度もどことなくでかい。
 それが身長に見合った気迫なのだろうか。
「生徒会選挙って、俺、演説とか得意じゃねーし。てか、お前のこと全然知らないもん。
 応援演説とか無理だって!」
 見も知らない一年生。ついでに言えば、入学式の翌日だ。
 それが突然二年の教室にやってきたかと思えばさらりとそんなことを切り出した。
 それも、放課後とはいえ周りが注視する中で。
「応援演説じゃありませんよ。俺と一緒に、生徒会やりませんかって言ってるんです」
「はぁ!?」
「あなたを生徒会長にしてみせますよ」
 かっこいい笑顔を浮かべる目の前のコイツはいったいなにを考えているのか。
 困って振り返ると、友人の上総が引きつった笑いを浮かべている。
「成績、素行、人柄、どれをとってもウチの進級組に引けをとらない。
 かと言って野心家ではなく……俺の将来の足がかりにはもってこいなんですよ」
 す、と悠都の背丈に合わせて腰を屈め、耳元でそう囁やかれて、
 不覚にもその呼吸が耳に触れるのに体が固まる。
「踏み台かよ」
「そうとも言います」
「それ以外の言い方があるか?」
「尊敬してるんですよ。人徳があって」
「アホか」
 一蹴すると、不遜な一年坊主はキレイと言っていいだろう笑みを浮かべる。
「俺、新條一夜って言います。よろしく、帆澄さん」
 当然のように名前を呼ばれて、悠都は目を見張った。
「じゃあ、また来ますね」
 悠々と去っていくその背中を呆然と見送ると、上総がそろりと声を掛けてきた。
「…おーい、大丈夫か?」
「だ……大丈夫じゃねぇ!!なんなんだ、アイツ!?」
 ぐりん、と振り返って上総の胸ぐらを掴むと、チュッパチャップスを銜えたままの上総が両手を上げる。
「いやん、悠ちゃんたら乱暴しないで!ギブギブ〜!」
「気色悪ぃ声出すんじゃねー!」
「いやぁ、マジで落ち着けって」
 がくがくと揺さぶる悠都に笑いを含んだ声でそう言って、
 上総はあっさりと悠都の手から逃れた。
 上総は寮へ、悠都は実家へ。
 帰る方向は一緒だから話ながら歩く。
「新條一夜、ここじゃかなりの有名人だな。小等部からの進級組だし」
「有名人?」
「そ。成績優秀、スポーツ万能で人付き合いの方も可もなく不可もなしってところか。
ただ、対立関係を産まない代わりにあんまり深入りされるのも嫌いな質なんだろうなぁ。
どこの派閥にも属さないで一匹狼してるところがまた、上級生からも下級生からも一目置かれてるんだよな」
 曰く、高等部にもなれば進級組と同数の外部生が入ってくるために派閥色も薄くなるそうだが、
 特に中等部に入ると急に上下関係がはっきりしだして一種の組織ができあがるのだそうだ。
「仲良し倶楽部が突然、国会議員みたくなるワケよ」
「は〜……。つか、ヤな感じ」
「ま、しゃーないったらしゃーないわな。狭い世界だし?」
 緑央学園は大学を除けば高等部が一番人数が多い。一番少ないのが中等部だ。
 よりにもよって男子校なのが悪いのか、因縁の深いところは日本海溝よりも深いらしい。
「お前もかよ?」
「オレ?オレは長いものには巻かれろって感じで、適当に合わせてたかな。処世術ってやつよ」
「……嫌な中学生…」
「まぁ、そういうなって」
 苦笑いする上総に僅かにため息をついて、高等部からでよかったとつくづく思った。
「で?」
「あ?」
「新條のハナシ」
「あぁ。あいつはなー。ホントにどこにも属さないでやってけるヤツだから…なんつーかこう、
新條の取り合いみたいのも結構あったんだよ。当の本人は全然興味ないみたいだったんだけどな。
あと、あいつの傘下に入りたい同級生、下級生は山のようにいたな」
「……すごいんだ」
「すごいな。先生とか先輩とかにも勝っちまうし」
「あぁ、えらそーではあった」
「なはは…」
 素直な感想に苦笑を浮かべた上総は、ふと首を傾げる。
「だから、余計に驚いたな」
「うん?」
「だって、入学式翌日に生徒会出馬宣言だろ?きっと明日には全校中の噂になってるぞ。特に、進級組には」
「え〜〜!!」
「そもそも、ウチの学校って外部生も多いっつったって、
やっぱり進級組が生徒会とかやる率高いわけよ。今の会長だってそうだし」
「清野会長だっけ?」
「そうそう。だから、あいつが生徒会やるっつっただけでも驚きなのに
外部生のお前を誘うあたりがさらに驚きだな」
「……でもさ、話聞いてる限りじゃその方が新條らしいんじゃねーの?」
 飽きたのか、ガリ、と飴を噛み砕いた上総が眼を瞬かせる。
「だって、中等部の先輩とかって新條を取り合いしてた人等ばっかなんだろ?」
「……まぁな」
「その中で選ぶよりは、外部生から選んだ方がなにかと動きやすいじゃん、新條的に」
「……あぁ、なるほど」
 鋭いトコつくな、と感心したように言った上総は、次の瞬間に悪戯っぽい顔になる。
「で、どーすんのよ?」
「どうって?」
「生徒会」
「やめろよ、考えたくもない。おれがそんなガラだと思うか?」
「結構あってるんじゃねぇ?お前、みんなに好かれるタイプだし」
「はぁ?」
 本気で驚くと、上総は大きな声で笑った。
「やるんだったら応援するぜ」
「やらねーよ」
 膝裏に蹴りをいれる真似をして、寮の前で上総と別れた。
 生徒会。
 新條。
「……あったまいてー」
 吸い込まれそうな強い光を持った眼をしていた。
「明日きたら、断ろう。うん」
 そう、決意したはずだった。


(なんでこんなことになったんだっけ……)
 壇上にいる自分だけがふと取り残されたような気がして、悠都はちらりとステージ右端に視線を向ける。
「……!」
 新條と眼があった。
 本当に、ちらりと見ただけだったのに、新條はふ、と微笑み返してきた。
 今、応援演説をしているのは現生徒会長の清野。
 対抗馬になるはずの進級組出身者は清野が悠都の応援をすると決めた段階で
 気勢を削がれたのか出馬を断念、悠都は不信任が出ない限り間違いなく当選する。
(あーもー……全部あいつのせいだ!)
 おだてられたわけでもないのに、いつの間にか新條といるのが楽しくなっていた。
 最初の生徒会宣言以来、新條はその話をせずにただ悠都との交友関係を結ぶことに努め、
 気づけば上総にも劣らない友達になっていたのだ。
 だからかもしれない。
(完璧、のせられてんじゃん……)
 そんな重荷、背負う予定ではなかったというのに。
『生徒会選挙の開票結果を告示します。全校生徒は教室のテレビのスイッチを入れ…』
 そんな放送部と選挙管理委員会の言葉を上の空に聞きながら、悠都はただ、
 自分のひとのよさに苦笑するだけだった。

「明日になったら、思いっきり威張り散らしてやる」

 そう断言した隣で、悠都を陥れた犯人がキレイに笑った。





**********

新條の隣にいる居心地の良さに、いつの間にか安心している自分がいた。

だから気付かなかったんだ・・・その気持ちが何なのかを。

そしてある日、俺と新條はとんでもないスキャンダルネタに振り回されることになる。

それをネタにして、俺を脅す榊。新條のことを考えると抵抗できない俺・・・・

それぞれの”好き”な気持ちが交錯する-------

俺の気持ちの行方は・・・・・・・・?

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〜続きは、ボイスドラマ「好きのカタチ」でお楽しみください♪〜



 






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